可笑《おか》しそうに笑い出した。青年は、驚いたように、夫人と顔を見合わせた。
「貴君のように、大ゲサな物いいをする人はないわ。私達は、お友達同士じゃありませんか。いつまでも、貴君は私の好きなお友達よ。」いとしむような、艶《あで》やかな愛嬌に溢れている夫人の顔を、それ以上見るのが恥かしく、青年はまた視線をそらした。
「一しょに遠乗りをしても、用心する。パーティに行くのも危険だ。一しょに小旅行《トリップ》に行くなんて一大事だなんて云うお友達は、一体どんな顔をしている。どーらちょっとこちらを向いてごらんなさい!」と、云いながら、夫人の手が無造作に、青年の顎に延びた。
青年は、真赤になりながら、いやでも夫人と顔を見合わせなければならなかった。彼は、咽喉と胸がいくらかつまるような気持がして夫人の手をそっと顎から押しのけた。
ちょうど、馬を預けてある百姓家の前へ来た。
「ほほ……。もう何にもお願いしないわ。でも、馬にだけは乗せてくれるでしょう?」青年は、夫人を介添して、夫人のほっそりした右の片足を支えて、馬背《ばはい》にまたがらせた。
再び馬上の人となった夫人は、薔薇《ばら》の花のように、ほ
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