ける。それは小浅間の鬼押出しと呼ばれている、流れ出した熔岩のかたまった焼石の原である。
その景色と、その上に点出された馬上の二人と、まるで外国の絵のようだ。
熔岩の道は、だんだん爪先上りになり、やがてまた谷のような、くぼみの所まで出ると、夫人は手綱をしめて馬を控えた。
「下りてご覧になりますか。」黒鹿毛《くろかげ》に乗っている青年は、後から声をかけた。夫人はかむり[#「かむり」に傍点]を振った。
「貴君《あなた》こそ疲れたのじゃない? 弱虫ね。」
「ご冗談を! 僕は学習院にいたとき、これで伊豆半島一周の遠乗りをしましたよ。」
青年の盛んな答えを、嬉しそうな笑顔で受けて、夫人は馬を立て直すと、やや早い馳走《キャンター》で走り出した。
荒涼たる焼石の原から、柔かい緑の丘へ、二頭の馬はたてがみで高原の涼風を切る。
夫人は昵懇《じっこん》らしい百姓家に、馬を預け飼料《かいば》をやるように頼むと、鞭をステッキのように持ったまま青年と並んでグリーン・ホテルへ行く坂道を歩き出した。
「逸郎さん、貴君、当分|宿《とま》って行くでしょう。」
「当分って、二、三日のつもりですよ。」
「お家へ電話
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