ろ》にしまって、子供達の部屋に降りて来て、祥子の相手をしていたが、昼食のとき自分の部屋へ帰ったとき、開けてみると、それは、思いがけない不当な大金であった。
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  戯恋馬上行




        一

 ここらあたりは、スカンジナビアかどこか、北欧の景色に似ているという、薄白く霧のかかっている草野原で、土地の女の子が撫子《なでしこ》をつんでいる。
「このへんでお休みになりませんか。」
 若さで、はち切れそうな青年紳士が、先へ打たせている同じ馬上の夫人に呼びかける。
「押出しまで行きましょうよ。休みなら千ヶ滝の坂の下へ、馬を預けて、ホテルでお茶をご一しょに、その方がいいわ。」
 競走馬上りと見える流星栗毛のスマートな牝馬《ひんば》に、純白の乗馬服を着た夫人は、大公妃のように跨《またが》っている。しかし、声は新子に話す時などとは違って、小娘のようにはずんでいる。
 つばの広い帽子の下で、双眸《そうぼう》がはれやかにまたたき、さわやかな風に頬をなぶらせ、夫人はまるで別人のようにはしゃいでいるのだ。
 二、三町ばかり、軽い速歩《トロット》で進むと、眼下に新しい景色が展《ひら》
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