とって置きの秘蔵品だったのかと思うと、新子は悲しかった。だが、母はニコニコしながら、
「重松さんにね、こんな指輪、どうせ安いんだろうと思って見せたら、金は今とても、値がいいんですってね。ねえ、新子売ってもいいだろうね。あなたに相談しようと思って、呼んだのよ、どう?」母は、二、三年来の金の値上りにさえ、今更おどろいているらしかった。
「そうね。そりゃ売ってもいいけれど、重松さん、今一|匁《もんめ》いくらで買って行くの。」
「十円五十銭です。」頭をテカテカになでつけた重松は、どっかにずるそうなところのある四十近い小男だった。
「もっと、するのじゃないの。」
「十一円五十銭まで行きましたが、このところ一円ばかり下っていますので……」
「この指輪、何匁あるの。」新子は、一つずつ持ち上げてみながら訊いた。
「大きい方が、五匁二分。小さい方が、四匁四分、両方で九匁六分でございます。」
「重松さんのはかり[#「はかり」に傍点]、インチキじゃないの。」と、新子がからかうと、
「どう致しまして、それにお母さまが、ちゃんと古い書付を持っていらっしゃいます。ごまかしがきかないんですよ。」
「へえ。どんな書付
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