すよ。早く行ってお休みなさい。」
「今から、眠るということも出来ませんし、小太郎さんの勉強がすんでから、ゆっくり休ませて頂きます。」と、新子は小声でいった。
準之助氏はじっと新子の顔を見つめていたが、
「貴女の顔も、なんだか赤いようですよ。熱があるんじゃありませんか……」さっき赤くなった頬が、まだあせないでいたのである。
「熱なんか……」と、いいながら、新子はつい自分の額に手をあてると、
「どれ!」と、準之助氏は、無遠慮に新子の手首を取り上げて、脈拍《みゃく》を探った。
新子は、間がわるく、あわてて手を引っ込めようとしたが、そんなことをしては、なおこの場が色っぽくなるような気がして、静かに相手のなすままに委せていた。
「少し早いじゃありませんか。ムリをしちゃいけませんな。女中を呼びますから、お引き取りになって下さい。」
新子は、すっかり睡気がなくなってしまっていたが、こうやって準之助氏と向い合っていることがきまりがわるくなったので、
「それでは、失礼します。」というと、部屋を出て行った。
新子の屋根裏に近い部屋は、電燈の灯ったままで、ひんやりと、明方の空気が肌寒かった。
新子
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