ええ。でも、もう少しお傍にいたいと思います。ほんとうにはよくお休みになっていないようですもの。」
「そうですか。じゃ、しばらく傍にいてやって下さい。すぐ女中が、参るでしょうから。」そういうと、準之助氏は、立ち上って、階上の居間に引き取ってしまった。
 間もなく、女中がはいって来た。
「ご病気でも、奥さまはお子さまと別々にお休みになりますの。」と、新子はつい訊いてしまった。
「奥さまは、万事外国風なんですの。あちらに四、五年いらしったものですから。だから、小さいお嬢さまなんか、ほんとうにお気の毒なんですの。」
 自分をあんなに慕うのも、やっぱり母の愛に飢えているからだろう。そう思うと、新子はいじらしさが、胸の中に、しみ出して来て、あの高飛車な夫人に対する意地からでも、徹夜して、看病したくなった。
 小さい寝息は、時々苦しげに、せわしくなった。そして、(あつい! あつい!)と叫びながら蒲団をおしのけたりした。
「ねえ。しずかに、お休みなさい! あしたまでには、きっとよくなりますわ。ねえ、ねえ。そうしたら、今日のつづきの漫画よんで上げましょうね。」
 羽根蒲団の上をかるく叩いた。
 女中と交
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