あまりさすってはかえっていけないのだろうと思って、そっと手を引こうとすると、祥子はパッと眼を開くのだった。
静かに、静かにさすりながら、祥子の寝つくのを待つより外仕方がなかった。
「熱が高いので、肺炎を警戒するように医者が云っていました。」準之助氏が、低くつぶやくように云った。
「まあ。おかわいそうに、やっぱり、雨におぬれになったのが、いけなかったのですね。」女中が居なくなったので、新子は準之助氏の注意に拘らず、同じことをくり返した。
「そうかもしれません。しかし、僕達がそんなことを云い出してはいけません。妻が聴こうものなら、僕と貴女とで、病気にしたようなことを云い出しますからねえ。」
「でも、わるかったわ。アメリカン・ベイカリで、もっと休んでいればよかったのですわね。」
「いや、この子は、よく熱を出すんです。妻なんか、冗談にこの子のことを、熱出し機械なんて云っているくらいです。だから、安心し切っていますよ。」新子は、子供のうつらうつらと寝入った気配に、そっと手を引いた。
「眠ったようですな。どうぞ、引き取ってお休み下さい。もう十一時過ぎですから。女中が、附き添っていますから。」
「
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