口惜《くや》しさに顔を赤くしながらも、しとやかに夫人の言葉を受けた。
「それだけ、申し上げたくてお呼びしたのです。どうぞ、お引き取り下さい!」と、夫人はあくまで高飛車に、部屋を取りかえたことなどは、夫人としては当然すぎることらしく、それに対する挨拶などは一切なかった。
新子も、こんな気持で、夫人とこれ以上対坐することは、堪えられなかったので、
「失礼致しました。」と、せわしなくいって、立ち去ろうとすると、
「ちょっと、恐れ入りますが……」と、ひどくやさしく夫人は、新子を呼び止めた。
新子が振り向くと、夫人はステンド・グラスの張ってある白い卓子《テーブル》の上の、青磁の花瓶を指しながら、
「何でもようございますわ。これに、花をさして持って来ておいて下さいませんか、庭に何かあるでしょうから。」
「はア。」新子は、花瓶をとり上げて、早々に部屋を出た。
新子は、文句を云われた後に、たちまち用事をいいつけられたので、驚きながらも、庭へ出て、ポンポン・ダリヤばかりを切って、夫人の部屋へ持って行くと、夫人は、
「ありがとう。それから、これを切っておいて下さいません。」と、ペイパ・ナイフと「英国
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