拍子に、眼がかち合った。
 すぐ、その眼をそらしながら、準之助氏は、
「貴女は、子供好きですね。」と、いった。
「ええ。」
「私の妻なんか、自分の子供でも、あまり可愛くないと見えますね。」
 新子は、また返事に窮した。
「貴女がながくいて下さるといいですな。」
「なぜで、ございます。」
「貴女が、子供と一しょにいて下さったこの三日、僕は何となく安らかな思いでいましたよ。」
 藤棚の下の、一番よい場所の卓子《テーブル》を占領して、子供達は二人を待っていた。

        三

 準之助氏の心に、とろりと艶《なま》めかしいわだかまりが出来ていることを、新子はハッキリ感じていたが、しかし新子は、それによって、心を動かされはしなかった。といって、それを煩わしいとも重くるしいとも思わなかった。ただ好意のある微笑をもって、のぞもうと思っていた。
 初対面のときから、準之助氏に好意と敬愛とを持ってはいたが、しかしそれが、どうころんでも愛慕になるとは思えなかった。
 それに、彼女は美沢を愛していたから。
 でも、こうして四人づれで、子供達には仮の母のように、準之助氏には、仮の妻のように、行動してい
前へ 次へ
全429ページ中61ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング