ぎて来ているんです。いや、これはとんでもないことを申しました。さあ、どうぞその駒をおすすめ下さい!」新子は、ひどくのどかな気持でいたのに、準之助氏のこの思いがけない話題で、すっかり気持が乱れた。
 もう、子供のようにダイヤモンド・ゲームなど、やっていられる気持ではなかった。強いて駒を動かそうとしても、考えがまとまらなかった。
 折よく、目覚めた幼い兄妹が、歩調を合わせて、廊下を駈けて、この部屋へ走り込んで来てくれたので、新子はホッと救われた気持になった。
 祥子は、新子の肩にすがりながら、
「南條先生、ずるいわ。パパと二人ぎりで、お茶をめし上って、なぜサチ子を呼んで下さらないの?」と、わる気はないが、詰問だった。
「あら、ご免あそばせ。でも、祥子さんは、ほんとうに、よくお休みになっていたんですよ。お起しするのがわるいくらい。」
「そうお。ダイヤモンド・ゲーム、サチ子としましょう。」と、祥子がいうと、
「祥子がすんだら、僕とだよ。ねえ、先生!」と、小太郎は自分の順番を確保した。
 子供達と、ゲームを争いながらも、新子は準之助氏の言葉が、気になって仕方がなかった。
 そして、ふと準之助氏の
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