はきかえ、帯のゆるみをなおしてから、荷物を一通り片づけて、さて気持を落ちつけるために、壁際にあるソファに、腰をおろした。
路子が来ていないと知ったとき、自分を夫人からかばってくれる人が居ないのを知って、悲しく思ったが、その夫人が五、六日は来ないことを知って、うれしくなった。
あの高飛車な夫人に対する気兼さえなければ、この家は相当楽しいところに違いない。準之助氏は、英国紳士のように、優雅で親切に思えたから……霧が、だんだん晴れて窓から近く離山《はなれやま》が見える。こんなに明るい静かな生活であったら、自分も勉強が出来る。まるで、都会の厩舎《きゅうしゃ》から高原の牧場へ放された馬のようではないかと思っていると、お茶の迎いらしく幼い足音が、響いて来た。
四
新子は、次の朝|郭公《かっこう》とミヒヒという山羊の声で眼がさめた。腕時計を見ると、六時少し前であったけれど、彼女はそのまま起きて、やや肌寒いのでセルのサッパリした常着《ふだんぎ》に着かえて庭へ出た。
庭の面《おもて》には輝かしい朝の陽が溢《あふ》れているのだったけれど、家をとりまく緑の繁みに、まだ朝ぎりが、ほ
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