ゴルフへ行っていらっしゃいます。」と云う返事だった。
 廊下が、一段トンと低くなって、そのとっつきの洋室が、新子のための部屋だという。
 庭に面して、二方に窓があり、淡いみどりの壁紙が貼ってあり、取りつけのベッドがあり、気持のよい部屋で、軽井沢特有の少し湿気を帯びた、すがすがしい山の風が、部屋の中を吹き払っている。
 カーテンが風に、帆のようにふくらみ、たちまちガラス窓に、ぴったりと吸われる。
「もったいないほど、よいお部屋でございますこと。」と、新子が云うと、
「洗面所《トイレット》やバスは、後でご案内いたします。」と、外人別荘にいたことのあるらしい女中は、英語を使った。
 それまで、新子につきまとっていた子供に、
「さあ、先生は汽車でお疲れになっていますから、少しお休みになるそうですから、お坊っちゃん達は、お二人でお遊びなさいませ。」と子供にいってから、新子に「四時にお茶でございますから、そのとき旦那さまにご挨拶なさいませ。」と、いって、子供達を向うへ連れて行ってくれた。
 新子は何から何まで、外国式なこの家の主人に気に入るように、キチンとしたいと思って、髪をなおし、足袋《たび》を
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