されるように、プラットフォームに降りてしまった。
ベルが鳴った。
「さよなら。」
「気をつけてね。」
車が動くと、見送人は吹き寄せられたように取り残される。はしゃいでいる美和子は、汽車と一しょに走って、フォームのはずれまで来て手を振った。
新子は、とうとう美沢とは会わなかった。美沢は、前夜の手紙に対し返事を速達でよこし、急に会いたいといって来たが、それと同時に軽井沢行きが定って今日の出発となった。
会いたくもあったが、しかし会わないで行く方が、余情が多いようにも思った。
どうせ、簡単に結婚できないとすれば、ある間隔を保っていた方が、お互のためにいいのではないかと思った。
それに、美和子などが、あんな調子で甘えかかっていても、そうやすやすとは心をうごかす美沢でないことを、新子は信じたいと思った。
だから、美沢のことは、比較的安心が出来た。心配なのは、やはり準之助夫人である。昨日《きのう》夫人からもらった採用通知の電話の最初の言葉なども、嫌だった。
(主人ともいろいろ相談致しましたが、こちらはどちらでもよろしいんですけれども、貴女《あなた》が非常にご希望のようですから……)と
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