持にだけなって下さればいいんです。」
 すぐには、返事が出来なかった。
「それそれ、そんなに考えないで下さい。考えれば、どうしたって、余計な思案が入って来ますよ。」
「それでいいのでしょうか。」新子の声が弱々しくかすれた。
「いいどころじゃない。僕達が別れたくないためには、そうしなければならない。理性にだけつけば、僕達は軽井沢で、もう別れて路傍の人になっていますよ。あんな酒場なんか出さないし、今度の事件なんか起らないんですよ。理性と感情と中途半端だから、ゴタゴタするんですよ。僕は、今度は貴女を失いたくないという自分の感情本位で行動しますよ。」
「私だって、感情だけで行動できたら、どんなに幸福だろうかと思いますの……、美和子のように……」
「うむ。」と、前川は深くうなずくと、たちまち自分の目頭がうるむのを覚え、新子が限りなく、いじらしくなり、ギュッと抱きしめて、顔中に唇の雨を降らせたい激しい衝動を感じるのを、息を呑み込んで、ズンズン歩きつづけることで、やっと押えた。
 京橋の十字路も、いつか越していた。
「お腹すかない?」
「何だか分りませんの。胸が一杯でご飯頂けるかしら……」
「随分歩
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