いたから、ともかく落着きましょう。」と、その通りの路次を、少しはいった、大きい日本造りの鳥料理の店を、ステッキの先で示しながら、
「あの家静かですから……」
 新子はその先を見やりもせず、
「でも、そこまで行ってしまうの、なかなか勇気がいりますわねえ。」
「よろしい。今までは、僕がいけなかった。僕も勇気を出す、そして貴女にも勇気を出してもらうようにする。それでやってみて、もし日本が、住みにくかったら、一緒に三、四年外国へ行っていようじゃありませんか。」
 と、前川は獅子の如く勇敢に、料理屋の門をはいって、玄関へつづく砂利の小径を、新子のかぼそい身体を、抱くようにしながら、グングン歩いて行った。



底本:「貞操問答」文春文庫、文藝春秋
   2002(平成12)年10月10日第1刷
底本の親本:「菊池寛全集 第十三巻」高松市立菊池寛記念館刊
   1994(平成6)年11月
入力:kompass
校正:土屋隆
2007年8月10日作成
青空文庫作成ファイル:
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