首を振って、席に着いた。
「ほんとうに、申し訳ありません。かんにんして下さい。」と、重ねて、詫び入りながら前川は、にわかに胸の内に、明るいものが、さし上って来るのを感じた。
(結局、俺の生活には、この人が一番、大事なのだ。この人をさえ失わなければ……何物をも犠牲にして、この人を失わないことが大事なのだ……。人生の方針を、そう訂正することが正しいのだ……)と、彼は思った。
家へ帰って、夫人にどう云われようが、夫人がどんな行動に出ようとも!
曲者の夫人は、こうなれば……前川の愛が、自分にないことを知れば知るほど、ただ夫婦という立場だけを、振り廻して、向って来るに違いなかった。しかし、夫人があらゆる謀計を逞《たくま》しゅうしても、もう前川は、二足三足昇りかけた殉愛の階段を、降りる気はなかった。いな、たといその階段が、地獄への下《くだ》りになっていようとも。
「僕どんな償いでも致します。だから、妻の云ったことなど忘れて下さい。」と、云うと新子は、首を振って
「いいえ。」と、打ち消した。
「どうして?」前川は、憂鬱そうに、顔を曇らせて訊ねた。
新子は、せかずにゆっくりと、自分の気持を前川に
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