伝えたかった。しかし、そうするには、ここはあまりに、人目が多すぎた。

        五

 新子が、何か云いためらっており、それがまた周囲のせい[#「せい」に傍点]だと思うと、前川は、
「ともかく、ここを出ましょうか。」と、云った。新子が、機械的に頷《うなず》いてしまったので、前川は重ねて、
「どこか、静かな家で食事でもしながら、お話ししましょう。」と、云った。
 新子は、素直に立ち上って、外へ出ると、レジスターへ行った前川を、涼しい夜風に、吹かれながら待っていた。
「どこへ行きましょうか。」と、訊ねる前川に、
「あちらへ!」と、築地の方向を指さすと、一、二間先に立って、電車通りを渡った。向う側の横町なら、人目も少いし、万が一にも綾子夫人に、見られる気づかいはないと思ったのであろう。
 出雲橋を渡って、人通りが少くなると、新子は歩調をゆるめながら、
「私、奥さまに、家庭破壊者だって、いわれたのが、一番悲しゅうございましたわ。」と、いい出した。前川は、だまって聞いていた。
「外国の芝居なんか読んで、(汝《ユー》! 家庭破壊者《ホームブレーカー》よ!)なんて、夫人《マダム》に追い出され
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