れはいいじゃありませんか。この店が前川のものであることを、貴女が認めていらっしゃる以上、前川の妻の私が、出て下さいと云う以上、お出になってもいいじゃありませんか。バーテンダーを呼んで下さいませんか。私バーテンダーに話しますから。」
 新子にとって、はや絶対の場合となった時、何と思ったか、美和子が、気楽そうな笑顔で、いきなり扉《ドア》を開けて、部屋の中をのぞき込んだ。

        五

 美和子は、姉の泣き顔を一目見ると、急に前川夫人に対して、猛然たる敵意を感じたらしく、その可愛い眼に、殺気を漂わせ、部屋の内にはいって、姉の傍に歩み寄りながら、
「お姉さま、どうしたの?」と、いって訊いた。
「………」
 新子は、さすがに妹の肉親の情の頼もしく、それだけまた悲しくなって、口がきけずにいると、美和子はいきなり、前川夫人に対して、
「奥さま、どうしたと、おっしゃるんですの。私に、案内させておきながら、お姉さまを苛《いじ》めるなんて、厭ですわ。」と、喰ってかかった。
 夫人は、この小《ち》イちゃい娘をハナから、無視していることとて、
「貴女は、お若いんだから、下へ降りていて下さらない?」と
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