に、首を振った。
「じゃ、私がここにいること、どうしてお知りになりましたの。」と、重ねて訊ねると、
「そりゃア知れますよ。」と、木賀は事もなげだった。
「でも……」と、不安そうな表情を、正直にさらけ出すと、
「こんなところで、新しい酒場《バー》を出せば、すぐ僕に分りますよ。」
「だって、私が居りますのが……」
「そりゃ、僕の六感。」と、木賀は、いよいよ事もなげに笑った。新子も笑いながら、
「こわい六感ですわねえ。私、貴君《あなた》がはいっていらしったのを見てびっくりしましたの。」と、受けながら、新子の気持はやや落着いた。
「いくら、びっくりしても、あんなに颯爽《さっそう》と、お逃げにならなくっても、いいじゃありませんか。あれで、貴女だということが、いよいよ分った……」
「まあ、颯爽と……」妙な比喩《ひゆ》に新子も笑った。
「貴女が、銀座に出たという噂だけは、聞いたんですよ。それ以来貴女を探していたのですよ。でも、ここだろうと睨《にら》んだのは、僕の直感だったのですよ。」
「私が、銀座に出ているなんて噂、どなたから、お聞きになりましたの……」新子は、また不安になった。
「それは、貴女の六
前へ 次へ
全429ページ中379ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング