い酒場だな。」
 客は、無遠慮に、部屋中を見廻しているので、少女達も、モジモジしているばかりである。
 相手は、前川とは、それほど懇意でなく、夫人の親しい友達であってみれば、顔を見られぬに越したことがないと思い、木賀が、やっと席につき、煙草を取り出して、うつむいたわずかな隙にサッと衝立の陰をのがれ、バー・スタンドの脇をくぐって、二階の居間に駈け上った。
 しかし間もなく、よし子が二階へ追ってきて、
「ねえ、あの方マダムをご存じの方らしいの。会いたいとおっしゃるのよ。」と、扉口に来て呼んだ。

        五

 木賀などには、今の場合一番来てもらいたくなかった。いっそ頑張って、会うまいかと思ったが、もし偶然来たものだとすれば、会わない方がかえって前川夫人にすぐ注進されることになりそうなので、新子は胸をとどろかし、顔を赤くしながら、やっと階下《した》へ降りて来た。
「やア、しばらく。」木賀は、案外気がるに、やさしい調子で挨拶をした。
「しばらく、どなたにお聞きになりましたの?」と、新子はさし向いに、腰をおろしながら、探るように尋ねた。
「いや、だれにも聞きやしません。」木賀は愉快そう
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