準之助って実業家の家……ご存じないかしら、私のお友達のお兄さんよ。
子供さん達は、みな素直な良い子らしいの。ただ前川夫人が少し難物、一ひねりも二ひねりもありそうな人物。でも、私おおいに奮闘してみるつもり。私が、働かないと、だんだん家中干ぼしになる怖れあり、貴君は家庭教師など、不賛成かもしれませんが、どうかあしからず。
二、三日の内に軽井沢へ行きます。貴君もお忙しいようだし、多分秋までお目にかかれません。お花を買って来て、よかったわ。あまり、このお部屋殺風景じゃございません? 物干しに、朝顔の鉢でも、お置きになったらどう? 私のような、麗人を迎えるのに、ふさわしくないわ。レコードだけじゃ、物足りないじゃありませんか。
でも、レコード聞かせて頂いたわ。ラローのスペイン交響曲、とてもいいわ。貴君を待っている気特にぴったりしていたかもしれません。
お煙草、チェリイが一日に四箱ですって、お母さまに伺ったのよ。二箱になさっちゃどう?
[#ここで字下げ終わり]
[#地から2字上げ]しん子
   直巳様

 美沢は、美和子につき合った浮気心を、我ながらいよいよ情なく思った。

        六

 
前へ 次へ
全429ページ中38ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング