ているか、知れたものではない。その上、気がついてみると、この頃前川の帰り方が、以前よりはずーっと遅くなっている。一昨夜も、自分が歌舞伎から帰ってみると、良人の容子に、自分より、ホンの一足|前《さき》に帰ったらしいところがあった。
(これは、とんだ大きな尻尾を掴んだかもしれない!)と、夫人は憤《いきどお》りとともに意地の悪い快感を覚えて、何も知らぬらしくあわてて飛んで来る新子の姉を待つ気になったのである。電話の容子では、与《くみ》しやすいと見て、少し調子を合わせながら、新子のことを洗いざらい、訊き質《ただ》してやろうと考えたのである。
四
新子の姉を待っているうちに、前川夫人は何か思いついたように、呼鈴《ベル》を押して女中を呼んだ。
「いまの電話の人、ちょいちょい来たことあるの?」と、やや優しく訊ねた。
「いつか一度、いらしったことがあるそうですが、私はお取次ぎいたしませんでした。九月中に、一、二度お電話がかかりましたことは、存じております。」女中は、まだ恟々《きょうきょう》としていた。
「そうお。」と、顎であちらへと示しただけでもう顧みず、また鏡に向ったまま、考え
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