頂きますわ。」と、電話は切れた。側《そば》に、おずおずと立っている女中へ、
「もう、会社の方へ、電話しなくてもいいわよ。」と、云った。女中は、まだオドオドしながら、
「一度かけましたんですけれど、お話し中でお待ちしている内に、今の方から、お電話がございましたので……」と、相すまなそうな女中の云い訳を、背中で聴き流しながら、二階の部屋へ帰って来ると、綾子夫人は、もう一度鏡の前に、苦っぽい笑いを浮べて、腰をかけた。
 もう、四、五年前から、夫婦らしいことは、年にいく度もないという前川である。それだけに、外に女を作るような良人ではないと、夫人は信じていた。もちろん、夫婦生活は不満であった。夫人は、前川氏を意地悪く、真綿で首を締《し》めるような苛《いじ》め方をして、つまり精神的にサジズムによって、その不満を癒《いや》しているような傾向があった。
 南條新子に対して、前川が何となく、好もしい感情を持っているらしかったから、事にかこつけて、暇を出した。二人の間は、それぎりだと思っていたのに、思いがけなく、新子の姉という女からの電話である。姉にまで余計な後援をしているとすれば、新子にはどんな後援をし
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