降りて行くのが、いやになった。
 子供に返ったような、新子自身にも、どうにもならない気持だった。
 しかし、ともかくも、顔を直そうと、鏡台の前に腰をおろした。重い椿の花片《はなびら》のように、眸が泣き腫《は》れて、すべすべしていた。
 そのとき、いきなりノックの音がしたので、新子は、ハッと我に返った。
 足音も、気配も、感じなかったのに、……もう一度ノックが続いた。
(前川さんだろうか。こんな顔しているのに、困るわ)と、思いながら、しかし嬉しくてたまらなかった。
(おはいり下さい!)と云おうと思ったが、もしも美和子であったら、シャクだと思ったので、立って行って、扉《ドア》を開けると同時に、
「どうなさったんですか。」と不安そうに訊かれて、新子はやっと微笑しながら、かぶりを振った。涙でよごれた顔もかまわず、むけながら、
「お帰りにならなかったんですの?」と、云った。
「帰れますか。心配で……しかし、ほかに客がいるのに、僕が上って来たら、可笑《おか》しいので、苛々《いらいら》しながら、下で待っていたんですよ。」と、云いながら、新子の傍へ坐ろうとするので、新子はあわてて片隅に片づけてあった椅
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