、帰れといったって、階下《した》のお客様達は、みんな美和子びいき[#「びいき」に傍点]だわ。」美和子は、そんなことまでいった。
言語道断な気がして、新子が蒼白い顔で、グッと黙りつづけているので、美和子も仕方がなく、
「降りていらっしゃらないのならいいわ。その代りに、前川さん、お帰りになっても知らないわよ。」
黙っている新子にも、気になるにくらしい捨台詞《すてぜりふ》を残して、サッサと下へ降りてしまった。階段の中途からは、はやいつも口ずさむ小唄になり、わざと最後の二、三段は飛び降りたらしい騒々しさと、自分のことを何かおどけて報告したらしく、階下のお客達の笑う声や、美和子の甲高い声がきこえて来た。新子は、身内の慄《ふる》えるような口惜《くや》しさを感じた。美和子など、もう妹とは考えまいと思った。姉の幸福なら、どんなものでも、立ち入って来て自分も味わわねば承知せず、しかもそれを制せんとする姉の手を、チクチクと針で刺す――奇怪な動物のようにさえ感ぜられた。新子は口おしさといきどおらしさで、涙が流れ出すと、たちまち糸の切れた珠数《じゅず》のように止め度なく落ちた。
五
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