子は少しあわてたが、前川が向うむきになっているのを幸い、外のお客にはちょっと目礼しただけで、二階の自分の部屋へ逃げるように上って来た。
さっきの美和子の、美沢に対する態度を見ると、もう美沢などには何の執着もないことが分ったので、また美和子らしい出鱈目さで、前川に対してどんなことをやり出すかも分らないと思うと、一刻も油断のならぬような気がしたが、といって美和子と争って、前川のご機嫌を取ることは、死んでもいやだと思ったし、美和子が前川の卓子《テーブル》へ行っている以上、近づくのも汚らわしいような気がしたが、それでも、そのままに傍観するのにはあまりに焦々《いらいら》して来る心だった。新子は、それがハッキリ嫉妬であることが、自分で分った。なにか心も身体も疲れて、壁に背をもたせ、両足をなげ出して坐っていたが、階下《した》のことが気にかかりながら、どうしても降りて行こうという気持にはなれなかった。
二十分間もそのままの姿勢でいると、
「お姉さま、降りていらっしゃらない? 皆様お待ちかねよ。」と、声だけは天真爛漫に、美和子が階下から呼んだ。
四
新子が、ありあまる思いで黙っ
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