》をのせた人力車の梶棒に、危うく突き飛ばされそうになって、身を避けると、場所にも在らず、悲しくなって涙がユルユルと流れて来た。
 こんな気持ですぐお店へ帰って、美和子と顔を見合わせるのがいやになって、銀座の電車通りの方へ、一人フラフラと歩き出した。
 一思いに、ワッと泣けてしまえば、さぞせいせいするだろうが、いろいろ複雑な気持が入り交じっているだけに、悲しみは重く鈍く、胸にわだかまっていて、何も持っていない両手に、頼りない淋しさをそそられて、両方の袖口に、手を差し入れて、我とわが胸を抱くような姿勢で、新子はネオン・サインのにべもなく、続いている銀座の街を、それから二十分ばかり、ぼんやり歩いた。やがて致し方のないことであるというあきらめに、悲しみを心の片隅に追いやって、もう客も来ているであろうバー・スワンへ、戻るべき道を辿《たど》ったのである。
 お店へ帰ってみると、客は三組ばかり来ていたが、美和子はと思って、見廻すと、先刻まで自分と美沢とが、さし向いになって坐っていたボックスに、思いがけなく前川と、さし向いになって坐っているのである。
 前川が、こんなに早くと思っていなかっただけに、新
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