って、コンチタ・スペルビアのスペイン歌謡曲をかけると、自分も小声で共に和しながら、酒場の中を、一、二度行きつもどりつした。
 その時、扉《ドア》の開く音がした。美和子は、姉でなかったら、女給のどちらかだろうと思って振向きもしなかった。
「今晩は! いいご機嫌ですね。」それは、思いがけなく前川だった。
「あら、いらっしゃい!」たちまち、美和子は何事もなかったような朗らかさに返って、明るい双眸《そうぼう》に一杯の微笑みを湛《たた》えて、
「お姉さまかと思ったわ。今日は、お早いのね。」
「お姉様は、どうしたんです! 今日は、まだ来ていないんですか。商売不熱心ですね。」
「ううん。違うのよ。」美和子は、含みのある微笑を浮べながら、さりげなく、
「おかけにならない?」と、前川に椅子をすすめた。
 前川が、ソファに腰を下すと、美和子も近々とかけながら、
「お姉さま、今しがたまで居たんだけれど……貴君《あなた》が、まだいらっしゃらないと思って……」
 と、思わせぶりな物云いである。
「買物にでも……」
「そうでもないの。」
「ほほう。じゃ、お友達でも……」
「ええ。つまりお友達だわねえ。」
「そうで
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