を、自分に対する非難だと思ったらしく、
「だから、僕は貴女が、お帰りになるのを待って謝ろう、いさぎよく貴女の制裁を受けようと思っていたのですが、貴女は美和ちゃんから、どういうことを聴かれたのかもしれないが、今日まで一切何も云ってくれないでしょう。勝手なうぬぼれかもしれないが、口に出して云わなくっても、お互に愛人同士だと思っていただけに、貴女の無言は、貴女の気持を見失ったように思われ、ボンヤリしてしまったんです。それに、僕は自分で犯した罪があるだけに、自分の方からは図々しく、貴女の方へ働きかけることが出来なかったのです。その内に、貴女と前川さんとが……あの方、前川さんでしょう……帝劇から出るところを見てしまったんです。失恋とは、こんなものかなあと思うほど、みじめな気持になってしまったんです。美和ちゃんとのことなんか、あの人から渡される芝居の役柄のような立場を、苛々《いらいら》しながら、勤めていただけですよ。」
言葉づかいは改まっていたが、心のままを素直に打ちあけられて、新子は悲しかった。
軽井沢から、帰って来て、すぐにも美沢のところへ行かれなかったのは、自分にも美沢と同じあやまちがあ
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