んか云わないで下さい。美和ちゃんは、あんな年寄なんか、掌中に丸め込むのは、お手のものじゃありませんか。それも、僕をほんとうに愛しているからじゃなく、ただ興味本位の一時のお芝居なんですよ……だから、もう飽きてしまって、僕のところへなんか寄りつかないじゃありませんか。」
藪を突ついて蛇! 美和子の煩《わずら》わしさを突き去ろうとして、思いがけなく、美沢との煩悩《トラブル》をつつき出した形である。
七
美沢も、なお言葉をつづけた。平生、口数の少いだけに、こうなるとその切々とした述懐に、力が籠《こも》って来るのである。
「貴女が軽井沢へ行かれた後、不意に美和ちゃんに、訪ねて来られて、その晩か次の晩に、接吻をしてしまって失敗《しま》ったと思ったんです。何の深い考えもなく、全く突発的な出来事だったんです……しかし、僕は、貴女にすまないと思いました。」
そう云われると、新子は自分をアテこすられているようで、身が竦《すく》む思いがした。しかし、(私も、それと同じことがあったんです。全く突然で、深い考えもなく……)とは、告白できなかった。
美沢は、新子の表情が易《かわ》ったの
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