「それよりも……」
 美沢は、じっと新子の眼を見つめながら、
「僕は、貴女のお気持が聴きたいんですよ。貴女は、どうして軽井沢から、帰って来ながら、すぐに僕のところへ、手紙なり姿なり見せてくれなかったんですか。」と詰《なじ》って来た。
「その時、すぐにも貴女に会えたら、こんな妙ちきりん[#「ちきりん」に傍点]な三角関係なんか、出来なかったんですよ。僕も、いけなかったですけれど、新子さん! 僕は、貴女に洗いざらい打ち明けて、美和子さんとの話は、打ち切りたいと思ってやって来たんですよ。」
 新子が、何か物云う隙もなく、後をつづけた。
「美和子さんは、貴女とはまるで違う。明るくて、無頓着で、超人的な魅力を持っていますよ。それだけに、誘惑されたり、征服慾を誘われたりするものの、心の底からの愛情の動きなんかちっとも感じられませんね。あの人は、心を持たない女ですよ。結婚するには、感覚的な刺戟や、性的魅力の有無などということよりも、心の愛情が一番大切なんじゃありませんか。あの人は、ただあそびのお友達ですよ。ほんとに、心を委せておけるような……」
「でも……貴君のお母様のお話では……」
「母のことな
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