ますの。」
美沢は、やっと苦笑して、
「お互に、あさましい話をするようになりましたね。」と、云った。新子もともに、やや笑った。
「だって、仕方がありませんわ。」
(貴君も、私も同じように失策をしたんですもの)と、後の方は心の中で云った。
六
二人とも、やや核心にふれた物云いをしたので、思いがけなく、心の角《かど》が除《と》れ、新子は急に話しやすくなった。
「美和子ね。まるで、とり止めがなくて、手こずっているんですよ。貴君が、結婚して下さるおつもりなら、貴君に監督をお願いしようかと思って……。私の云うことなんか、てんで聴かないんですもの……」新子は、以前の親しみが、半分以上、甦ったような物云いが出来た。
「いや、美和子さんなんて、誰の手にだって負えるもんですか。あの人の気持なんか、僕になんか分りませんよ、千変万化ですよ、僕なんかいい加減、引っぱり廻されていたんですよ。……」そう云って、美沢は、改めて眉をひそめた。
そう云われてみれば、温和《おとな》しく純真な美沢に、美和子を操る力など、最初から無かったことに、今更のように気がついて、新子は更に、味気ない気になった
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