べく意識しないように、
「貴君のお母様からも、お話がありましたし……美和子も、貴君と結婚したいように申しておりましたんですけれど、……この頃美和子は、まるで貴君とも、全然お目にかかっていないようだし、一体どうしたんでございましょうか……」
美沢は、無言である。つねさえ、あまり口数をきかない人が、何か一杯抗議を盛った沈黙で、向い合われると、新子は勢い、自分一人で喋りつづけるほかはなかった。
「それに、この頃の美和子は、まるで結婚前の娘とは思われないようなことばかり致しておりますの。頼みも致しませんのに、この店へ手伝いに参りまして、毎晩遅くまで、お客さまの相手をして、酔っぱらったりなんか致しますの……。貴方《あなた》とのお話があるのに、何ですか、することなすこと、私には腑《ふ》に落ちないことばかりですの……。だから、一度貴君にお目にかかって、貴君ご自身の美和子に対するほんとうの気持を、お訊きしたかったんですの。」
しかし、美沢はまだ無言であった。
「私も、いろいろお話しいたしますわ。貴君のお気持も、うかがってもいいんですわ。……とにかく、改めて美和子の姉として、貴君にお願いしたいと思い
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