一しょに店を出て行った後は、仕事も手につかないほど取乱していた自分が、自分で分っていたし……。これから先も、自分が、前川には遠慮があって、思うことの三分の一も話せないのに、妹があの調子で、渾身《こんしん》の力を振って甘えかかって行ったら……、しかも、あの奔放自在な媚態で……。などと、考えて来ると、新子はいらいらして乾いて来る自分の心を、制しきれなかった。
これはたしかに嫉妬である。しかもかなり烈しい嫉妬であると、気がつくと、その嫉妬の底に在る、前川に対する愛情に、初めて気がついたように、新子は我ながら狼狽した。これは、今の内に善後策を講じないと、どんな悲しいことになるかもしれないと考え出した。自分がどんなに叱っても制しても、どうなる妹でもないし、母にはむろん手に負えないし……新子は考え迷った末、いっそ美沢に頼んで、美和子をしっかり捕まえていてもらうのが、一番いいことだと思った。美沢だって、母をよこすくらいだから、結婚してくれる気持はあるはずだし、一度美沢に会って、美和子に対して、どんな気持を持っているのか、よく訊き質《ただ》した上で、美和子をウロウロさせないように監督してもらおうと思
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