夜美和子のあさましいまでの醜態を見、前川に対する気持を聞かされてすっかり憂鬱になり、床にはいってからも容易に寝つかれなかった。
妹と一人の男を中に、みにくい争いをするのが嫌さに、美沢は思い切って、妹に与えたつもりでいたのに、子供が玩具《おもちゃ》に飽きるように、美和子はたちまち美沢を放り出して、新子の生活に侵入して来て、今度は新子を向うに廻して、前川の寵《ちょう》を争うつもりでいるらしい。今度は、身を避けるのにも避けようがなかった。まだ子供だし、なすがままに委せて見ていればいいようなものの、子供とは云え、どこかに逞《たくま》しい機智が閃《ひらめ》き、それに持って生れた少女魅力《ベビー・エロ》を備え、何をするか分らない出鱈目さがあるし……。
美沢との関係が、なまじ純潔で、誓いの言葉一つ交していなかったし、唇さえ接したことがなかったため、たちまち妹に奪われてもどうすることも出来なかったように……前川とも、ただ精神的な繋がりだけで、一度の突発的な接吻以外は、何のとりとめた間柄ではないだけに、新子は、妹が前川の身辺に、からみつくことは不快だった。
昨日《きのう》だって、前川と美和子とが、
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