んなんかと結婚するつもり、ちっともないわ。わたし、思い切って、スワンの女給になって、前川さんから月々お小づかいを貰って、遊んでいる方がよっぽど楽しいわ。」
「美和ちゃん! あまり出鱈目をするのよしなさいよ。私、あなたが美沢さんと、どうなっているのか知らないけれども、美沢さんのお母さんが、あんな話を持ち込んで来た以上、そんなに簡単に中止することは出来ないはずよ。女なんて、そんなに軽々しくするものじゃなくってよ。そんなことをすれば、だんだん自分の値打ちが下って来てよ。」と、運転手には聞えないように、小声ではあったが、かなり険しくたしなめた。
「だってェ……」
「だってじゃないわよ。私だって前川さんに、お世話になる筋はないのを、眼をつむって、お世話になっているのに、貴女《あなた》までがご迷惑をかけるなんて、手はないじゃないの。貴女が、あの方にあまりウルサクするのなら、私あのお店なんかよしてしまうわ。」
「だって、そりゃお姉さまの、つまらない心配よ。前川さんなんて方、お金が沢山あるんだもの、向うでして下さることを、こちらで心配しなくってもいいじゃないの。今日なんか、このハンドバッグのほかに、靴
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