一時に店を片づけて、美和子を介抱しながら、自動車に乗ったが、美和子は車が動き出すと、気持が悪くなったらしく、水のようなものを、ゲラゲラ吐き出した。
「困りますね。何か敷いてくれませんか。」運転手は、ブツブツ云いながら自動車を止めた。
 新子は、妹の浅ましさに泣きたいような気持で、脊《せ》を撫でてやると、美和子は思いがけなく、運転手に啖呵《たんか》を切り始めた。
「あなたの車なんか、よごさないわよ。ヨッパライを乗せてるんだから徐行してよ。お金なら、いくらでもまして上げるわよ。」運転手は、苦笑しながら、しかし云われたとおり、静かに走り始めた。
 美和子は、姉の肩に身をすりつけて、
「ねえ、楽しいわ。」と、酒臭い溜息をした。
「楽しいもないわ。そんなになって醜態だわ。明日からお店へ来るのお断りだわ。」
「お姉さまの意地悪!」と、一層新子の胸に、顔を埋めて、甘ったるい泣言を云い始めた。
「美沢さんなんてエ、駄目なの。美和子、酔っちゃったから、ほんとのことを云っちまうわよ。美沢さんなんか、心ならずも、私と仲よしになったもんだから、今になって何か云うと、私にばかり責任を被《かぶ》せたがるのよ。
前へ 次へ
全429ページ中300ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング