けげんな顔で、
「百貨店《デパート》に、用事がおありんなるの?」
「ちょっと、松屋で買いたいものがあるんですが、貴女のご意見も伺った方が、いいかもしれないので、一しょに行って頂こうかと……」と云うと、早くも悟って、
「ああ、解ったわ。お姉さまに、何か買ってお上げになるんでしょう。いいわ。私が見立てるわ。その代り、私にも何か買って下さるんでしょう?」
「もちろん、そうなるでしょうな。」前川も、幾分ふざけて云った。
松屋まで歩くのは、ちょっと辛かったので、そこの駐車場から、円タクに乗った。
「買物を先にしても、大丈夫ですか。お腹が空いて倒れることなんかないですか。」と云うと、
「もう、お腹の空いていることなんか、忘れちゃったわ。何を買って頂こうかと、考えているのよ。もう、ご飯なんか、どうだっていいわ。私、ひとりで後で頂いてもいいことよ。」と、たちまち発揮する勝手坊主に、前川は苦笑しながら、
「貴女は、どんなものがいいんでしょうか。」と訊くと、美和子は小さい頭をかしげ、
「美和子、欲しいもの、いろいろあるのよ。でも、デパートなんかには、ないかもしれないわ。ローヤルで、サンダル・シューズをあ
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