どう影響されるかもしれたものではなかった。
「美和子ちゃん。貴女、速達が来ていたの、急用じゃないの?」と、美沢のことを思い起させようとしたが、
「あれは、何でもないの。」と、あっさり答えて、
「じゃ、お姉さまは、いらっしゃらないのね。じゃ、出かけましょうか。」と、前川を促した。
「じゃ、また……」と、挨拶して、美和子とともに出かけようとする前川に、
「お転婆で、わがままで、ほんとうに困るんですよ。どうぞ、甘やかして下さらないように。」
 と、云うと、前川は新子の言葉を、姉としての謙遜としか解さないらしく、
「いや、なかなか明朗なお嬢さんですよ。」と、微笑しながら、美和子の後を追うて降りて行った。
 前川さんが、まさかまだお乳の香《におい》のとれない美和子などにと思っても、子供ながらに一くせも二くせもある妹だけにいやだった。といって自分も一しょについて行くことは、はしたない気がして……。もっとも、美沢の場合にだって、何も云う権利のない自分であるから、前川氏の行動に対して文句を云えるはずもなく――いな、心をうごかすはずでもないのであるが、何となくやるせなく不安になるのをどうすることも出来な
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