のことを云って、会いたがっていますよ。それに、路子も、たいへん貴女に、すまながっています。今度、何か機会を作りますから、子供をご覧になりませんか。」
「ぜひ、どうぞ。」
話していても、新子は何となく不満である。もっと外の話がしたい。もっと心に触れる話が……こんな話で飽きたらないのは、結局前川を愛しているためだろうか。と新子は、自分の心を探ってみている。前川とても、同じ気持であろうか、他愛ない話を、あれやこれやとしながらも、容易に腰を上げかねていた。時間ばかりが、切なく過ぎる。突然、
「お姉さまァ。上にいらっしゃるの!」ハッとするほど陽気な声がして、バタバタと、階段を上って来る足音がした。
「僕、居てもかまいませんか。」と云う、前川の言葉の終らぬ内に、部屋の中へ、美和子が飛び込んで来た。
「あら!」前川を見ると、さすがに顔を赧《あか》くして、「お姉さま、ちゃんとご紹介してよ。」と、恥かしそうに、前川から顔をそむけて、姉の肩に甘えかかった。新子もつい、おかしくなって、笑いながら、
「前川さん。妹の美和子でございます。」と、紹介した。
「そうですか。昨夜《ゆうべ》は、あんなに僕達をおかつぎ
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