ながら、(妹を使えば、お店の繁昌は疑いないけれど、でも使うのはいやだし……)と、迷っていた。
準之助氏は、もし都合がつけば開店の景気を見に来るといっていたが、とうとう来ず、九時近くになって、電話がかかって来た。
「どうです、景気は?」
新子は、わくわく胸を躍らせながら、
「たいへんな景気よ。ちょっといらっしゃらないこと?」
「もう、家へ帰ってしまったのです。」
「まあ、お家から?」
「はあ。」
「つまんないわ。」
新子は、物足りない気がして、ついそんなはすっぱな言葉づかいをしてしまった。こうして家を持たしてもらうと、ただ出資者というものに対する感情以外のものが、もう胸の中に出来上っているのであった。
三
上々吉の開業日の、あくる日だった。
まだ暮れて間のない七時頃に、美和子はお友達を五人連れて、勢いよく乗り込んで来た。その中に、相川さんというお嬢さんは、新子も一、二度顔を見たことのある美和子の親友だったが、他の四人は見知らぬ青年達で、美和子のいわゆる男友達《ボーイ・フレンド》らしく、美和子のその青年達に対する態度は、傍若無人であった。
「ねえ。お姉さま、こ
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