うだった。妙子と呼ぶことにした。
 案内状は、主に準之助氏の知人関係に配られた。
 二十日、いよいよ開業の日である。美和子が、(お姉さま、今日だけは、わたし、とにかく手伝ってあげるわ)といってくれたのが、頼もしく思えたほど、心配だった。
 四時に店を開けてみると、最初一時間半ばかりは、お客がなかったが、六時近くになると、珍しいもの好きな銀座マンが一人はいり、二人はいり、ソファと椅子とに坐り切れず、予備の小椅子まで持ち出す盛況であった。
 手伝いに来ただけの美和子が、一番大車輪で、お客の註文など、一つも間違えず、
「お新規さんよ。キング・ジョージが二つ、それからソーセージが二つ。」などと、よし子や妙子を使い廻しての奮闘ぶりに、新子はなるほど、妹が自信ありげに、手伝いたがるはずだと、スタンドの陰で、微笑しつづけていた。
 それに、ベビー・エロと云ってもよい、美和子の白いスカートに黄色い腕なしのブラウスをつけた姿は、あらゆるお客の注視の的となり、いつの間に名を訊かれたのか教えたのか、
「美和子さん。美和子さん。」と、ひっぱりだこになっていた。
 新子は、美和子の持っている性的魅力の強さに驚き
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