れに、美沢さんの月収、いくらもないのよ。美和子のお小遣いくらい自分で稼げばうれしいわ。ねえ、美和子を使ってよ。明日《あした》一しょに、お店へ行くわ。」新子は、やはり美和子には、後で話せばよかったと思った。
「いやですよ。およしなさい。」
「ほんとうに、美沢さんのお母さんも、どうおっしゃるか分らないし……」傍《そば》から、母が口を出した。
「とにかく、開業の時お友達をつれて、行ってみるわ。行ってみるだけなら、いいでしょう。」と、ずるそうに笑った。
二
いくらお膳立が整い、箸を取るばかりになっているとはいえ、無経験な仕事であるだけに、開業日が迫ると共に、足の地に着かない、わくわくした落着かない気持がした。
二、三日して、美和子が、お友達の杉田よし子という少女を連れて来た。顔立のいいというわけではなかったが、色白で骨細《ほねぼそ》で、誰からも嫌われはしないといった型の、いかにも酒場《バー》の女給に、ふさわしい娘であった。
準之助氏が、以前会社に使っていたという給仕上りの娘を、一人世話してくれた。色の浅黒いチンマリかわいい顔立で、身体もガッチリしていて、いかにも働けそ
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