のくらいお客様を連れてくれば、大したものでしょう。みんなお酒飲みを集めたのよ。それに、勘定少し高く取っても大丈夫よ。特に、この人はねえ……」と、美和子は、背の高い、眼鏡をかけている青年の肩に、馴々と手をかけて、
「大村さんという、大ブルジョアなの。」と、無遠慮に云うので、初めてバーのマダムの如く、愛想のよい笑いを浮べながらも、心の中では……妹がこんなに誰彼なしに、媚態を見せても大丈夫なのかしらと、恨みを忘れて、美沢のためにハラハラするのであった。
 皆が、お店の一角に、席を占めると、美和子はビクトロラの傍に飛んで行って、レコード・ボックスから、「ボレロ」を取り出してかけた。店の中は急にロマンチックな気分になり、新子までが妹の大胆な言動に、辟易《へきえき》しながら、やはり楽しい気持になって行った。男達の前には、ビールが、美和子と相川さんの前には、バーテンの創案の、アルコール分の少いアヴェック・モア・カクテールが運ばれた。
「美和ちゃんのお姉さんのために、チェリオ!」青年の一人が、そう云って、みんなが一斉に盃を拳げた。
「美和子のためにも、チェリオ!」美和子は、自分で盃をあげた。
「美和子
前へ 次へ
全429ページ中273ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング