オン・ライトは薄紫がよくはありませんか。」
「はア……」新子は、危うく涙になりかけるほど、有頂天な嬉しさに浸っていた。
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義勇女給
一
もう、母や姉妹《きょうだい》に、少くとも母には、だまっているわけには行かなかった。
しかし、故《わけ》もないのに、前川氏に立派な店を持たしてもらったといったら、母は理解できずに、不安に思うだろうし、わがままな姉は、またいい気になって、前川氏にどんなことを頼むか分らないと思ったから、ただ前川氏に頼まれて「店の監督」になったといっておけばいいと思った。
綾子夫人も、とっくに帰京しているので、前川氏は妻の手前早く帰ってしまったので、新子も家へ帰ったのは、七時半頃だった。母一人のところで話せばいいものを、新しい生活に入る嬉しさは、おさえ切れず、つい美和子の居るところで、話してしまった。
「まあ、その酒場《バー》、前川さんが、おやりになるの?」と、美和子が訊いた。
「ええ、お道楽でおやりになるんですって。」
「素敵なんでしょうね。」
「ええ、とても気持のいい家よ。」
「新聞広告なんかしたって、なかなか美人なんて
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