。フランスにしばらくいた男で、カクテルには、自慢の腕を持っています。偏屈ですけれど、人間はごく正直な男ですから、洋酒の仕入れなど、一切|委《まか》せたらいいでしょう。貴女は、カウンターをやって、女給《ウェイトレス》は気持のいい少女を二人くらい傭ったらどうですか。」
「はア。」
「開業も、縁起のよい日がいいと思って、そんなことをよく知っている人に聞いたんですが、貴女は六白だから、今月は縁談金談はいいんです。十二日が大安でしたけれど、貴女の年には凶の日で、二十日の先勝がいいんですって……」
「まあ……そんなこと、お気になさいますの?」
「ははははあ。こういう水商売は、縁起をかついだ方が、いいのじゃありませんか。」準之助は、首をすくめて笑った。
「警察への届けなどは、こちらでやります。貴女は、明日でも新聞に広告して、貴女の気に入るような女給《ウェイトレス》を見つけて下さい。」
「はい。」新子は、長い言葉が出ないのであった。
「貴女、よくご覧になって足りないところがあったら、遠慮なく云って下さい。バーテンダーになる鈴木という男に万事頼んでおきましたから、大抵大丈夫でしょうけれど……表の看板のネ
前へ
次へ
全429ページ中267ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング