に傍点]の鉢植の蔭で、チラチラ動いていた。よくも短日月の内に、こんな変装が出来るものだと思われた。
滑るような床張りの中央に、古物らしいイタリイ製の水盤が置かれて、低いゆったりしたソファに椅子が、木製の美術的な小卓をかこんで巧みに配置され、白い壁にとりつけてある目を楽しませるだけの飾棚や、壁にかかっている見事な織物や金属製の飾物、どの一つにも豊かな詩趣と、驚くばかりの贅《ぜい》が、こらされていた。つき当りのスタンドの上の壁の、水彩画の中に、スワンが二羽、長い頸を延ばしていた。
「バー・スワン」準之助の明るい気持が、新子の眼の前に躍り出した。
「バーテンの後《うしろ》から、二階のお部屋へ行かれますよ。」大工の棟梁らしい男が新子に話しかけた。
バー・スタンドの後に、四畳半の部屋があり、そこから二階へ行く狭い階段がある。上って行くと、こぢんまりした一室が、居心地よく装飾され、スプリングの心地よいソファ・ベッドや、三面鏡や、簡単な衣裳箪笥が置かれていた。その行き届いた快さに、新子は茫然として立っていた。
六
その時階下から、
「新子さん、二階ですか。」と、久しぶりに聞
前へ
次へ
全429ページ中265ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング