かり勇み立ち、僕もちょっと見て参りました。場所もなかなかよろしく、隣りは煙草店《たばこみせ》、建て方ひとつで、気持のよい「酒場」になることと思います。あまりこっちに長く居りまして、具合が悪いので、明後日軽井沢の方へ参るつもり、明日午後は暇ですから、よろしければその家見にいらっしゃいませんか。午後一時、省線四谷駅前で、お待ちうけします。
いらっしゃれれば、別にご返事には及びません。もしご都合が悪ければ、ちょっと電話でお知らせ下さい。僕が、昨夜考えた「酒場」の名、バー・スワン、いかが、……妹さんご縁組のよし、貴女のご辛労たいへんでしょう。では、お目もじの上、いろいろと。失礼。
[#ここで字下げ終わり]
[#地から2字上げ]準之助

 投函して、二時間くらいで来た速達のような手紙であった。
 新子は、その手紙を見ると、その日の内にも、準之助氏に会いたいように思った。

        五

 万事を、準之助氏に頼んで、八月は何ということなしに、暮してしまった。
 九月も、半ばになった。
 空は、一面にどんよりとした層雲で包まれているのに、街の裾から、カッと落日の光がさし込んで、暗い通りに、建
前へ 次へ
全429ページ中263ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング