いですけれど、あれでよくいろんなことに、気がついているんですし、それに音楽なんかよく解るし……いっそ、お願いして、美沢さんに貰って頂いたら、どう?」と、云った。
新子の母は、(貴女は、それでいいの?)と、云うように、眼顔で、パチパチしばたたいた。
四
新子は、勇敢に事件に直面して、冷静に己れを持した。そのために、ヒステリックにもならなければ犠牲主義も振りまわさなかった。美沢をアッと云う間に美和子に取られてしまったことも、考えれば今までの新子の生涯にいく度かあったことと、大した相違はなかったのである。
綺麗な着物は、姉圭子に、新子はいつも、そのお古を、大きい方のお菓子は、それは、いつでも妹の美和子にあたえられるにきまっていた。幼い時代が過ぎて、大きいお菓子が、愛人になって、それを妹に渡してやっただけのことである。それっきりの話である。こうした我慢には、好い加減馴らされている新子であった。東京下町の小学生が唄いはやす(真中まぐそ[#「まぐそ」に傍点]、はさんですてろ)と、いうのが、南條家の新子の場合なのである。姉は年上なるがゆえに威張り、妹は年下なるが故に甘やかさ
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