になりましたようで……」
「はア。」新子は、やさしく笑った。
「昨夜は、ご心配をおかけして、相すみません。美和子さんが、宅の方にいらっしゃいますのですよ。」
「あの人、ほんとうにわがままで、ご迷惑をおかけしてすみません。」新子は、もう覚悟していたことなので、素直に答えることが出来た。
「いいえ。」美沢の母は、ちょっと新子の心持を探《さぐ》るように、ジッと視線を合せて、新子の澄んだ静かな瞳にぶっつかると、安心したように、
「何ですか。こう、藪《やぶ》から棒のようなお話ですけれど、……若いもの同士で、あやまち[#「あやまち」に傍点]のありません内に、いっそ美和子さんを、私の方へいただきたいと思うんでございますけれど……」
「美和子でございますか。」美沢の母の言葉が終らない内に、新子の母が、びっくりして訊き返した。
「はア。昨夜なんぞも……」美沢の母は、ちょっと思い計るように、そこで止してしまって、新子に、
「貴女とも、一度よくご相談したいと、思ってはおりましたんでございますけれど……」そう云われて、新子は顔を真赤にしたが、しかし、しっかりした調子で、母へ、
「お母さん、美和ちゃん、子供みた
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